吉武やげちゃんとは、やっぱりトレーニング初回のときのやりとりが印象的だったなぁ。
八下田僕もです。
吉武「君、なんだかすごく後ろ向きだね」って言って、ね。
いくら食べてもお腹が空いているような働き方だった。
吉武普通は「ビジョンを描こう」ってなったら、みんな積極的に考え始めるのに、やげちゃんはとても後ろ向きだった。後ろ向きというか、抵抗感さえあるように見えてね。
八下田トレーニング初回、全員の集合研修から、「後ろ向き」とか「あなたそれはダメだよ」ってガツンと言われるなんて思いもよりませんでした(笑)。あんなふうに人から言われたこともなかったので、最初は衝撃が大きかったですね。当時としては危機的状況だったので、その雰囲気をたけやんに見抜かれて声をかけてもらったんだと思うんですが……。
吉武そうそう。見るからにいっぱいいっぱいで、パツパツだった。
八下田そうなんです。自分を追い込んで仕事をして。例えるなら、ずっと食べ続けているのにお腹が空いている状態って言うのかな。仕事を抱え込んで、追い詰められて、それでも満足できないからまた仕事を詰め込んで。そんなんだったから、家庭も崩壊寸前になってしまって、本当に「ヤバい」時期でしたね。
吉武その閉塞感がすごく感じられたからね。これはきちんと対応しないとヤバイなって、すぐわかった。でも、そんな状況でも、話をし始めるとすぐ自己開示ができたよね。
八下田そうですね。それまではあまり自分を開示したり、自分のことを認めたりできなかったんですけど、そのときはすぐできました。
吉武それってなんでだと思う?
八下田いちばん大きいのは、たけやんが僕のことを「認めてくれた」っていうのがありますね。きっとたけやんは誰に対してもそうなんでしょうけど、「それでいいんだよ」「あなたはこういうところがいいから伸ばしていこう」って、肯定してくれる感じ。そこは最初から感じたし、楽にしてくれました。
吉武たしかに、そこは普段から意識していることではあるかな。俺は「監督」だから。監督って、特性を見つける天才でないといけない。人に苦手なことを強いたり、とにかく追い詰めて何かをさせるってことは意味がないんだよね。いいところ、伸ばすところを見つけて、それを他人から言ってもらうと人は成果を出すはずだって思ってる。その特性を見つけてあげる姿勢が、やげちゃんには最初から伝わってくれたのかもしれないね。
自分を認めると自由になれるし、
周りの人のことも自由にしてあげられるようになる。
吉武トレーニングを受けて、ちゃんと変われたと思う?
八下田そうですね。すごく自由になりました。それまでは「自分を認めてあげる」ってことができなかった。たけやんに認めてもらって自由にしてもらって、自分で自分を大切にすることができるようになったと思います。自分を承認できると周りの人のことも承認できるようになりますし。
吉武それはよかった。
八下田たけやんは認めてくれるんだけれども、やみくもに「君はできるよ」とか「あなたは大丈夫」といったことは言わないじゃないですか。「こういうことをしているから大丈夫」「これはできるようになった」って根拠があって、だから本当の自分に気付けたというか。
吉武そうだね。俺から見ても、やげちゃんは変わったと思うよ。具体的に生活の中ではどんなことが変わった?
八下田そうですね、とくに仕事。何でもかんでも自分ができなきゃって追い詰められることがなくなりました。それまでは、いい顔をしたいわけじゃなかったけど、周りからも「八下田さんは何でもできるね」って言われていたから、何でもできなきゃって思ってたんです。それが、できないことはできないと言えるようになったし、それでいいんだと思える。仕事を誰にも任せられずに、全部自分で一人ひとりのお客様に対応しなきゃと思ってたんですが、そういうのもなくなってきましたね。
吉武そうやって変わってきて、これからはどんなことをしていきたいと思う?
八下田自分がたけやんにしてもらったように、今度は自分が誰かを「認めてあげる」「自分を認められる手伝いをする」ってことを、やってみたいなと思っています。
吉武いいね。メンターから学んだ人は、メンターになれるって、言うしね。
八下田保護司とか、考えています。自己承認ができてない子どもっていっぱいいると思って。彼らに、「君には可能性があるんだよ」「できるんだよ」って、教えてあげたいなと。たけやんは僕にとっては恩人ですから。その恩を返せるくらい、自分のこの経験を、今度は誰かのために役立っていきたいですね。